一般社団法人の設立や運営における資金調達の方法として、「基金」という制度があります。これは、法人の活動の元手となる資金を集めるための仕組みであり、設立後の運営を安定させる上で重要な選択肢の一つです。基金制度を採用する場合には、定款への規定や拠出者との合意、法務局への登記といった一連の手続きが必要となります。
本記事では、この基金について、制度の概要から具体的な手続きの流れ、注意点までを解説します。
一般社団法人の活動資金となる「基金」とは?
一般社団法人の基金とは、法人の財産的基礎を確保するために、社員やそれ以外の人から拠出された金銭等の財産を指します。この制度は、法人の活動資金を安定させる目的で設けられており、設立時の初期費用や運営資金に充当することが可能です。
基金制度を採用する最大のメリットは、株式会社の資本金のように出資者に議決権を与えずに資金調達できる点にあります。ただし、基金は原則として拠出者に対して返還義務を負う「負債」として扱われる点が、返還義務のない寄付金とは大きく異なりますが、会計上は負債ではなく純資産として計上されることには注意が必要です。
基金制度の採用は必須ではない
一般社団法人は、株式会社と異なり資本金という概念がなく、財産なしでも設立が可能です。そのため、基金の設置は法律で義務付けられているわけではなく、各法人が任意で採用を決定できます。基金制度を導入しない選択も全く問題なく、基金なしで運営している法人も多数存在します。
特に、設立後の収益モデルが明確で、すぐに事業収入が見込める場合などには、あえて基金を設けないケースも考えられます。また、税制上の優遇措置がある非営利型一般社団法人を目指す場合においても、基金の有無がその認定要件に直接影響することはありません。
基金制度を導入するための手続きの流れ
基金制度を導入するには、まず法人の基本ルールである定款に基金に関する規定を設けることから始まります。その後、定款の定めに従って基金の拠出者を募集し、合意した内容に基づき金銭等の払込みを受けます。
基金が集まった後は、法務局で変更登記の申請が必要です。これらの手続きには、定款や拠出申込書、払込みがあったことを証明する書類などが求められます。将来的に基金制度が不要になった場合には、定款を変更し、基金を全額返還した上で制度を廃止することも可能です。
最初に定款で基金に関する規定を定める
基金制度を利用するためには、その根拠となる規定を定款に明記する必要があります。具体的には、「当法人は、基金を引き受ける者の募集をすることができる」といった条項を設けます。さらに、基金の拠出者の権利に関する規定や、基金の返還に関する手続きについても定めておかなければなりません。
返還手続きについては、返還の要件(純資産額が基金の総額を超えること)や、返還を決定するための機関(通常は社員総会)などを具体的に記載しておくことが、将来的なトラブルを避ける上で重要です。これらの定めがないと、そもそも基金を募集すること自体ができません。
基金の拠出を希望する人を募集する
定款に基金に関する規定を設けた後、実際に基金の拠出を希望する人の募集を開始します。基金の拠出者になれるのは、法人の構成員である社員に限られません。役員や、法人の活動に賛同する外部の個人・法人など、誰でも拠出者になることが可能です。
募集にあたっては、拠出を希望する人に対して、基金が返還義務のあるものであること、剰余金の分配は受けられないことなどを十分に説明し、理解を得た上で合意する必要があります。拠出者からの申し込みは、書面によって行われるのが一般的です。
募集時に決定しておくべき事項
基金の募集を開始する前に、具体的な募集事項を決定しておく必要があります。これには、募集に係る基金の総額、金銭以外の財産を拠出の目的とする場合はその旨と財産の内容価額、基金の払込期日または期間などが含まれます。これらの募集事項は、拠出者との間で認識の齟齬が生じないよう、明確に定めなければなりません。
そして、拠出者と法人の間で「基金拠出契約書」などの名称で契約書を締結することが望ましいです。この契約書には、決定した募集事項や返還手続きに関する内容を盛り込み、双方の合意内容を書面で残しておきます。
基金の募集後は登記が必要
拠出者からの払込みが完了したら、法務局にて登記の手続きを行う必要があります。登記事項は「基金の総額」であり、募集した基金の合計額を登記します。この登記は、払込みがあった日から2週間以内に行わなければならないと定められています。
手続きは、法人の主たる事務所の所在地を管轄する法務局で行います。登記申請には、登記申請書のほか、基金の総額について社員の同意があったことを証明する書類(同意書など)や、払込みがあったことを証明する書面(預金通帳のコピーなど)の添付が必要です。
集めた基金は拠出者へ返還する義務がある
基金の最も重要な特徴は、拠出者に対する返還義務がある点です。この返還義務を理解せずに基金を運転資金として安易に費消してしまうと、返還の際に資金が不足する事態に陥る可能性があるため、慎重な資金管理が求められます。
これは、返還義務のない寄付金とは根本的に異なりますが、当事者間で合意があれば返還しないとすることも可能です。また、集めた基金は、法人の会計上、負債でなく純資産として計上されます。
基金を返還するための条件とは
基金の返還は、いつでも自由に行えるわけではありません。法人の財産的基礎を維持するため、法律で厳格な条件が定められています。具体的には、ある事業年度の末日時点における純資産額が、基金と代替基金の合計額を超える場合に限り、その超過額を上限として返還が可能です。
これは、基金を返還した結果、法人の純資産が基金の総額を下回る事態を防ぐためのルールです。もし法人が解散する場合でも、この返還義務は消滅せず、残余財産から債権者への弁済を行った後、拠出者に返還されることになります。
基金の返還手続きの進め方
基金の返還を行うには、まず前述の返還条件を満たしているかを確認します。その上で、社員総会を招集し、基金を返還する旨の決議(通常は普通決議)を行う必要があります。この決議では、返還する基金の総額を定めます。
ただし、定款でこれとは異なる手続き(例えば理事会の決議によるなど)を定めている場合は、その定めに従います。社員総会での決議後、決定した金額を拠出者に対して返還します。複数の拠出者がいる場合、誰にいくら返還するかは、法人の裁量で決定できますが、拠出者間の公平性を保つ配慮が求められます。
一般社団法人の基金に関するよくある質問
ここでは、一般社団法人の基金制度について、特によく寄せられる質問とその回答をまとめます。基金は、株式会社の資本金や寄付金とは異なる独自の性質を持つため、混同されがちです。
また、一般財団法人における評議員のような、他の法人形態の仕組みとの違いを理解することも重要です。これらの違いを正しく把握することで、自法人の資金調達方法として基金制度が適切かどうかを判断する材料となります。
基金と寄付金は何が違う?
基金と寄付金の最も大きな違いは、返還義務の有無です。基金は、拠出者に対して原則として返還する義務を負いますが、寄付金は法人に対する贈与であり、原則として返還する必要がありません。
そのため、寄付金は会計上、純資産の部に計上され、この点は基金も同様ですが、法令上の性質として拠出者への返還義務が原則あることが大きな違いです。活動資金を集めるという目的は共通していますが、この法的な性質の違いは極めて重要です。基金の拠出を募る際は、これが原則として返還義務のあるものであることを明確に伝え、寄付と誤解されないように注意が必要です。
基金と資本金は同じもの?
基金は、株式会社における資本金とは性質が異なります。そもそも株式会社における資本金は必須ですが、基金は定めることができるものであり、その設置は任意です。また、株式会社では出資者である株主に対して剰余金の分配(配当)ができますが、非営利法人である一般社団法人では、基金の拠出者に対して剰余金を分配することは禁じられています。
基金には利息をつけられる?
基金の返還にあたって、利息を付けて返還することは認められていません。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の143条で「基金の返還に係る債権には、利息を付することができない。」と明記されています。基金の返還は拠出された額と同額とされており、利息を上乗せすることを示唆する規定はないのが現状です。これは、一般社団法人が剰余金の分配を目的としない非営利法人であるという性格に基づいています。
もし基金に利息を付けることを認めると、実質的な利益配当と同じ効果を生み、非営利性という法人の根本的な原則に反する可能性があるためです。したがって、基金は金銭の貸し借りとは異なり、利息の概念は適用されません。
まとめ
一般社団法人の基金制度は、法人の財産的基礎を強化し、活動を安定させるための有効な資金調達手段です。採用は任意ですが、導入する際は定款への規定、適切な募集手続き、そして法務局への登記が不可欠となります。基金の最も重要な特徴は、寄付金とは異なり、原則として拠出者への返還義務を負うという点です。
返還には純資産額に関する条件を満たした上で、社員総会の決議などの正規の手続きを経る必要があります。この法的性質を十分に理解し、計画的に活用することが、法人の健全な運営につながります。







