この記事は一般社団法人の設立をお考えの方、一般社団法人を運営している方向けの記事です。
私自身も一般社団法人行政書士の学校を運営する他、これまでに1000を超える一般社団法人の設立に関わってきた中で、その重要性が伝わっていないと感じたのが「社員」という存在についてです。
一般社団法人の「社員とは」
まず、一般社団法人の「社員」とは、社会一般的に使われる「社員(従業員など)」の意味とは異なります。
一般社団法人の「社員」とは、社員総会において議案を提出したり、その議決に参加し、議決権を行使する者を言います。株式会社で言うところの「株主」に近い立場と言えます。
株主総会が株式会社の重要事項を決める機関であるように、社員総会は、一般社団法人の重要事項を決定する最重要機関となります。その機関において議決権を持つのが「社員」ですから、非常に重要な存在なのです。
具体的には、一般社団法人の定款を変更したり、理事の選任解任権を持っていたり、解散すら求めたりできる重要な機関となります。
また、社員総会とは一般社団法人の重要事項(社員の退会など)を決定する最重要機関です。株式会社でいう株主総会とほとんど同じ役割をもっています。
職員との違い
一般社団法人の「社員」と職員の違いは、その役割と権利にあります。一般社団法人における社員は、その法人を構成し、社員総会において議決権を行使する構成員です。これに対し、職員は法人で働くスタッフであり、通常は日常業務を担当します。社員は法人の重要事項を決定する権利を持ち、議決権の行使が求められますが、職員はその役割を果たさず、経営や運営に関与しない場合が多いのです。
社員は法人の意思決定に関与し、その構成に基づいて行動しますが、職員とは異なり、労働契約に基づく雇用関係はありません。職員は業務を遂行するために出勤し、労働時間の管理が求められますが、社員は社員総会への出席が主な役割です。そのため一般社団法人の給料は社員は必ずしも発生するものでないですが、雇用関係にある職員は給料が発生します。なお、給与にうちて役員報酬は社員や職員は対象ではなくあくまで役員が対象のものとなります。社会保険については株式会社の運用と同様です。
「社員」の資格や要件
一般社団法人の設立の条件として、社員の人数が2名以上必要とされ、一人では設立できません。
社員の資格については、法律で規定されているわけではなく、それぞれの一般社団法人で定められる事項であり、社員の資格や入社の手続は、定款の定めるところによります。
この「社員の資格の得喪に関する規定」は定款の絶対的記載事項、つまり必ず記載する事項その記載がなければ、定款全体が無効、つまり資格を喪失することになります。
社員の資格要件としては、例えば下記のようなものが挙げられます。
- 専門職団体:○○に関する国家資格を有する者であること
- 同業者団体:○○業を営む者であること、○○業の営業許可を有する法人又は個人であること
- 学術団体:○○学の研究者であること
- 同窓会:○○大学の卒業生であること
また、社員の加入については社員総会の承認や代表理事の承認、理事会の承認など定款で定めることができます。 さらに、法人運営に係る経費を負担することや入会金・会費などの規定をおくこともできます。
逆に退社の手続きについても定款で定めることができます。
ここで会員との違いを整理しますと、社員は一般社団法人において必ず置かねばならない機関ですが、会員は法律上の機関では有りませんので置くか置かないかは自由となります。これに伴って会費の徴収があるかも同様に自由です。
まれに正会員をもって社員とする、というような定款もありますが、社員にすると議決権を持ちますので、実態に合わせて設計するのが大事です。
なお、社員は登記事項では有りませんので、もし社員の追加や代謝などがあっても変更登記は不要です。その際には一般社団法人の社員名簿の記載を変更して保管しますが、様式は特に決められていません。
社員の役割について
一般社団法人における社員の役割は、組織の運営や意思決定に直接関与することにあります。社員は、社員総会に参加し、議決権を行使することで、法人の重要事項を決定する責任を負っています。
そのため、社員は通常、定款の変更や理事の選任・解任、さらには法人の解散に関する議案を議論し、結論を出す貴重な存在です。これにより、法人の方向性や方針を決定する重要な役割を果たします。
社員の権利について
一般社団法人の社員は、様々な権利を有しています。その中には、社員総会に出席し、議決権を行使する権利が含まれます。また、社員総会の招集を請求したり、議題を提案する権利もあります。更に、定款や会計帳簿などの閲覧を求めることができ、理事の不正行為に対する差止め請求権も持っています。
このように、社員は法人の運営に大きく関与し、重要な決定に対する発言権を持つ存在です。ただし、法人を設立する際は、適切なメンバーを選び、意思疎通を図ることが重要です。設立後の運営がスムーズに行えるよう、信頼できる社員で構成することが求められます。社員としての権利を行使することで、一般社団法人の健全な運営を支える役割を果たすのです。
社員総会の決議について
一般法人法又は定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の議決権の過半数を有する社員が出席し、出席社員の議決権の過半数で決します。
この一般法人法による別段の定めとしては、特別決議を要する場合と全員が書面又は電磁的記録により同意したときの決議省略の場合があります。
特別決議とは、総社員の半数以上(頭数要件)であって、総社員の議決権の3分の2(定款でこれを上回る割合を定めることは可能)以上の賛成(決議要件)が必要であるとされるものであり、下記について必要とされています。
- 社員の除名
- 監事の解任
- 責任等の責任の一部免除
- 定款変更
- 事業の全部の譲渡
- 解散及び継続
- 合併契約の承認
このように重要な事項を決めることができる機関が「社員」なのです。やむを得ない事情があればいつでも退会・退社をすることができます。これを、任意退社といいます。
議決権をすべて持つための方法
一般社団法人の設立は2名以上の社員が必要ですが、例えば2名で設立したあと、両者が対立してしまった場合には、こうした議事が何も決まらないという状況にもなりえます。
では、100%の議決権を持つことはできるのでしょうか?
一般社団法人の社員には、法人もなることができます。
例えば私が代表の一般社団法人を作る場合、私以外に、私が100%株主である株式会社を経営しているとその株式会社とで社員になれば、100%の議決権を持つことができるようになります。
この場合には、株式会社は目的の範囲内でのみ法人格を持ちますので、株式会社の事業目的と、設立しようとする一般社団法人の目的とがある程度一致する必要があります。
社員を誰にするか、理事や監事をどうするかを機関設計と言いますが、安定した一般社団法人の運営のためには、それぞれの目的や役割を踏まえた上で、適切な機関設計をしていくことがとても大事なのです。
今はインターネット上に雛形もありますし、必要な書類を作れば一般社団法人を作ること自体はできますが、実は非営利型だったときに定款変更しなければならなくなったりしないように、また、運営で問題がないように最初からしっかり作ったあとのことも考えて一般社団法人を設立したいですね。
設立時社員の責任について
設立時社員は一般社団法人の設立において重要な役割を担い、その責任は多岐にわたります。
彼らは定款の作成、理事や監事の選任、法人所在地の決定などを行い、その行為には一定の責任が伴います。特に、職務の遂行において悪意や重大な過失があった場合、第三者に対して生じた損害を賠償する義務が生じることがあります。
もし法人が成立しなかった場合、設立時社員は連帯して設立行為に対する責任を負い、関連する費用を負担することも求められます。このため、設立時には慎重さが求められます。法人設立に際しての適切な計画と明確な定款の策定が重要です。特に税金については非営利型かどうかでも扱いがわかるところもありますので注意が必要です。
また、そもそもNPO法人との比較などもしっかり検討してどの法人を選ぶのか、それぞれの法人のメリットなどを踏まえたうえで決められるように、専門家に相談することは大事だと思います。